医療法人の監査とは?
医療法人監査は、経営の透明性の確保を理由に厚生労働省令に定められた基準等(主に医療法人会計基準)に準拠して計算書類が作成されているかをチェックすることが目的(準拠性監査)です。
準拠性監査とは?
計算書類等が特定の利用目的に適合した会計基準により作成される場合において、当該計算書類が法令や当該会計基準に従っているかの監査
一般的な外部監査(適正性監査)と比較すると、下記の表(表1)のように若干差異があります。
これは、医療法人監査においては、医療法人会計基準等で簡便的な会計処理の採用※が容認されており、その処理が採用された場合、原則的な方法との差異の金額が利用者に誤解を与える可能性がある為、計算書類全体の適正性を監査人が評価することは適切でないと考えられることによります。
※前々会計年度末日の負債総額が200億円未満の医療法人において、所有権移転外ファイナンス・リース取引における賃貸借処理、退職給付会計における簡便法の処理、貸倒引当金の法人税法基準での繰入限度額相当額の計上等
<表1> 医療法人監査と一般的な外部監査(金融商品取引法監査、会社法監査等)との差異
医療法人監査 | 一般的な外部監査 (金融商品取引法監査、会社法監査等) |
|
---|---|---|
対象・利用者 | 一般目的、広範囲の利用者 | 一般目的、広範囲の利用者 |
会計基準 | 医療法人会計基準及び医政局通知等 | 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準 |
監査意見 | 準拠性に関する意見 | 適性性に関する意見 |
監査人の判断 | 会計基準準拠性のみで計算書類が全体として適正か否かの評価は行わない | 会計基準準拠性の他、財務諸表が全体として適正であることの評価を行う |
医療法人監査の監査人について
準拠性ということで監査の保証水準が変わる訳ではありませんが、医療法人監査の場合は、より限定された範囲での監査という位置づけと捉えられます。
医療法人会計基準及び医政局通知のみならず、医療業界特有の問題に対する理解が必要です。
監査の専門家が必要とされる理由
医療法人監査の専門家が必要とされる理由として、下記二点が挙げられます。
医療法人への監査が導入された背景
- 2003
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2005
平成17年7月22日
厚生労働省「医業経営の非営利性等に関する検討会報告」
において、 透明性の高い医業経営を各医療法人が遂行できるようにするため、 医療法人制度について、継続してそのあり方を見直すべきと共に「公益性の高い医療サービス」を担う医療法人のうち、社会的な影響が大きい一定規模以上のものについては、経営の安定性の要請から、公認会計士や監査法人による財務諸表監査を受けなければならないものとするべき。
と結論付けられました。
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2015
平成27年2月9日
厚生労働省「第10回 医療法人の事業展開等に関する検討会」
にて 医療法人については、健全かつ適切に業務運営を行うために、経営の透明性の確保及びガバナンスの強化が求められている。
とされ、経営規模の大きい医療法人の経営の透明性の確保が不充分ではないかとの指摘がありました。
社会的責任も考慮し、経営の透明性の確保の為、学校法人同様、一定規模以上の医療法人を対象に公認会計士等による監査を義務付けるようになりました。
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平成27年4月3日
改正医療法案 閣議決定・国会提出
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平成27年9月16日
改正医療法 成立
< 表1 > 医療法人会計基準と病院会計準則との相違
差異項目 | 医療法人会計基準 *1 | 病院会計準則 |
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目的 | 法人全体の財政状態および経営成績を明らかにする(法人会計) | 病院毎の経営に有用な情報を提供し、会計情報の比較可能性を担保する(施設会計) |
新しい会計処理の導入 | 固定資産の減損会計、税効果会計の適用※2 | 規定なし |
純資産の表示 | 「資本金」を「出資金」、「利益剥余金」を「積立金」に変更し、「基金」を「出資金」と「積立金」の間に表示 | 特段科目の規定なし 必要に応じて科目分類し、当期純利益を内書き表示 |
事業損益と事業外損益の科目区分 | ||
・運営費補助金収益 | 事業収益 | 医療外収益 |
・施設設備補助金収益 | 事業収益 | 医療外収益 |
・患者外給食収益 | 事業収益 | 医療外収益 |
・診療費減免額 | 事業費 | 医療外費用 |
補助金の会計処理 | 圧縮記帳(直接減額又は積立金経理) | 負債計上し、減価償却に応じ医業外収益計上 |
退職給付債務 | 退職給付会計の適用が強制 前々会計年度 |
規定なし |
適用時差異は、15年以内又は平均残存勤務 期間の何れか短い方の年数で定額法処理 |
規定なし | |
リース資産 | ファイナンスリース取引につき3要件(医療法人会計基準運用指針9)に該当する場合は賃貸借処理が可能 | 通常の売買取引 |
消費税の会計処理 | 規定なし | 税抜方式 |
※1 適用が強制される医療法人は、対象法人のうち、以下に該当する法人が対象となります。
①最終会計年度に係る負債額の合計が50億円以上、又は収益額の合計が70億円以上である医療法人
②最終会計年度に係る負債額の合計が20億円以上、又は収益額の合計が10億円以上である社会医療法人
※2 税効果会計については重要性がある場合に限る
< 表2 > 組織体制について
項目 | 問題点 | 改善策 |
---|---|---|
規程の未整備 | 経理規程、人事規程、業務関係規程がなく、担当者に依存して業務が行われている | 業務のマニュアル化、規程化が必要 |
受払・在庫管理システムの未整備 | 医薬品・医療材料の受払記録管理・単価の登録、在庫管理について何も行っておらず、発注と仕入のみ管理している | SPDシステム(物品物流管理)を導入し、経営効率化・医療の安全性向上を図る必要がある |
実地棚卸の体制未整備 | 実地棚卸を各現場毎に任せており、適時性・精度が不十分 | 棚卸実施マニュアルに沿って、実地棚卸の時期、方法を徹底し、正しいカウントができるようにする |
固定資産管理体制の未整備 | 固定資産番号管理を行っておらず、実査も行っていない為、固定資産台帳と現物の整合性が確認できない | 設置場所・番号を管理し、定期的に実査を行って台帳と現物との照合を行う必要がある |
医業未収金管理体制の不備 | 診療未収金が多額に滞留しているにも関わらず、防止の対策も特段なく、督促の方法・手順・部署等のマニュアルも存在しない | 診療時・入院時から会計時・退院時に渡り、滞留を未然に防止する方策を策定すると共に、滞留が発生した場合の対処方法をマニュアルに基づき行うようにする必要がある |
診療報酬請求事務に関る管理体制の不備 | 査定・返戻・請求保留が多額に生じている、又は施設基準が順守されておらず、結果的に不正請求となってしまっている | 診療請求事務につき、定期的に診療報酬改定の研修等を行い情報を共有すると共に、医事課内での複数人でのチェック体制を強化する。又、施設基準等が継続的に順守されているかを確認する体制を徹底する |
理事会開催の不備 | 業務の執行状況の報告は定期的に理事長に行うことになっているものの、理事会開催の形跡はなく、重要事項の決定が文書で保存されていない | 医療法上、理事長は3ヶ月に1回以上、理事会を開催し、業務の執行を報告する義務を負うため(定款で別途1年で2回以上の開催と規定している場合は除く)、定期的に理事会を開催し、議事録等を保存する必要がある |